音読授業を創る そのA面とB面と         2011・07・27記




    
間のあけ方で音声表現の七割は決まる




           
なぎなた読み

  昔から「なぎなた読み」と言われているものがあります。「弁慶が、な
ぎなたで、義経を、刺し殺した」という文があったとします。この文を「弁
慶がな、ぎなたでよ、しつねをさ、し殺した」と読んでは意味内容がさっぱ
り分かりません。意味内容の区切りを無視した読み方になっているからです。
  こうした「なぎなた読み」は、初めて文章に接する初読時に多くみられ
ます。意味内容の理解が不十分か、読み慣れてないか、読み込みが足りない
ことに原因があるからだと思われます。このような読み方は、繰り返し読ん
で、読み慣れれば解消します。


           
メリハリづけ
  
 情感豊かに音声表現するには、メリハリが重要なことは言うまでもありま
せん。メリハリの主なものには、
  ・間、
  ・抑揚(イントネーション)、
  ・強調、
  ・転調、
  ・緩急変化、
  ・強弱変化、
  ・声量変化、
  ・リズム変化、
  ・音色
などがあります。
 これらの一つ一つの解説や練習については下記の拙著に詳述してある。
  ・教師向け本、『表現よみ入門』(一光社)
  ・児童向け本、『すぐ使える音読練習プリント』(ひまわり社) 
           低・中・高学年用の三分冊。


           
間の重要性


  これらの中で最も重要なものは間(ま)です。音声表現の上手下手は、
間のあけ方で七割は決まるといってもよいほどです。意味内容の区切りでき
ちんと間をあけて読めば、文章内容が相手によく伝わる読み方になります。
文章内容が音声によくのっかる読み方になります。本稿では、間はとっても
重要であるということを伝えたいのです。
  音声表現では、まず意味内容のかたまりで区切って読むことが最低限に
必要なことです。音声表現においては、ほんのちょっとした間のあけ方で、
全く似ても似つかぬ情感や雰囲気を作り出すことがよくあります。
  昔から日本の芸能(落語や講談や語り、歌舞伎や舞踊など)の分野で
「間は魔物だ」と言われてきました。
  前記した「なぎなた読み」のようにへんなところで間をとると、「間が
合わない」「間が悪い」読み方になります。
  逆に、へんに「間をあけすぎる」と「間が伸びた」「間が抜けた」「間
がはずれた」「間が持てない」表現になってしまいます。
  一本調子の読み方は「間がない」「間を欠く」読み方であり、「間をお
く」「間をあける」「間をもたす」ことによって「間が合う」「間がいい」
読み方になります。

         
こんな指導法はだめ


  従来から国語授業の中で、間のあけ方の指導法として、句点(まる)で
はチョンチョン、読点(てん)ではチョンと手を叩かせ、その分だけ間をあ
けて読ませる指導方法がありました。手を叩く代わりに、首を上下にコック
リと動かすという指導法もありました。
  間のとり方指導は、このような機械的で無味乾燥な方法ではいけません。
間の開け方は、手をたたいたり、首をコックリしたり、そんな主体性のない
ものであってはいけません。ある思い(感慨)に浸っている、思いを集めて
溜めて浸っている緊張した時間です。思いを溜めている心理的な緊張による
タイミングで開けていく時間です。
  間のとり方は、文章の意味内容から決定されてくるべきです。間には、
いろいろな働きがあります。意味の切れ目の間、強調の間、はさみこみの間、
文終止の間、期待もたせの間、ためらいの間、言いよどみの間、反応たしか
め待ちの間、真意さぐりの間、緊張を張りつめる間と緩める間、時間を縮め
る間と伸ばす間など、いろいろあります。
  間は「ここは幾つあける」とストップウオッチで機械的に計れる絶対的
な時間の長短ではなく、相対的なものであり、かなり個人的なものだと言え
ます。読み手によってかなり個人差があります。


         
かなり個人的なもの


  だからといって個々人がばらばらに勝手な間をあけて読んでいいわけで
もありません。だれもが「ここで間をあける」と認める一応の間というもの
はあります。だれでもが一応は認める間の長短もちゃんとあります。
  「かなり個人的なもの」という意味は、一人ひとりの意味内容の読み取
りや解釈のちがいが若干の間のあけ方の違いとなって現れるということです。
同じひとりの読み手であっても、その時々の読みの調子・リズム・雰囲気・
思いのちょっとした違いなどによって間のあけ方、メリハリ全体がかなり変
化してきます。意味内容の解釈の違い、その解釈の思いを押し出すちょっと
した違いが、音声表現全体の読み調子の変化となります。こうしたことが読
み手の身体反応(生理・心理・感情)に感応していき、この身体反応に個人
差となり、このちがいが、読み手の呼吸や鼓動や血流や身体感情反応の違い
となり、それが間のあけ方やメリハリづけの若干の違いとなって現れ出てき
ます。

       
句点と読点の間のあけ方の違い


  句点(まる)は、文の終止ですから、間を空けて読むのがふつうです。
句点個所で、間をあけないで読むことはめったにありません。
  読点(てん)では、いろいろあります。間を空けた方がよい場合と、空
けない方がよい場合と、空けても空けなくても、どっちでもいい場合などと
いろいろあります。読点が打ってなくても、間をあけて読む場合もけっこう
あります。
  意味内容の大きな区切りでは間をあけて読みます。長い文で、あちこち
に読点があった場合、読点ごとで間をあけて読むと、意味内容のつながりが
ばらばらになって何を語っているのか分からない音声表現になってしまいま
す。読点の多すぎる文章では、大きな意味内容の区切りを見極めて、それを
コアにして、間をあけたり、つづけたりして読み進めます。


         
例文で練習してみよう


 間のあけ方を、例文で練習してみましょう。

練習文例(1)

  次の文は、(間)と書いてある個所で間を空けるのが通常の読み方でし
ょう。(間)と書いてない読点個所はつなげて読むのがいいでしょう。

 きみがいたずらな友達と大ぜいで、おばけやしきを探検するつもりだった
ら、
(間)こわさなんかは問題でなくなる。(間)おばけが現れなかったら、
きみはきっと失望するにちがいない。
(間)その場合でも、(間)きみが友
達とはぐれて、ひとりぼっちになったとたん、
(間)こわさは、急にもくも
くと、心の中にわき上がるだろう。

           なだいなだ「なぜ、おばけは夜に出る」より引用

練習文例(2)

 まだ戦争のはげしかったころのことです。
 そのころは、おまんじゅうだの、キャラメルだの、チョコレートだの、そ
んな物はどこへ行ってもありませんでした。おやつどころではありませんで
した。食べる物といえば、お米の代わりに配給される、おいもや豆やかぼち
ゃしかありませんでした。
                 今西祐行『一つの花』より引用


 わたし音声表現のしかたをしめします。わたしの読み方の一つの例です。
他にも表現のしかたはいろいろあるでしょう。
 「まだ」のあとに軽い間をあけます。次の「戦争がはげしかった」という
ことを、前で間をあけて、次を注目させるためです。
 「そのころは」のあとに軽く間をあけます。「おまんじゅうだの、キャラ
メルだの、チョコレートだの」はひとまとめにして、ひとつながりにして読
みます。「そんなもの」はやや強めに転調したように読み出します。二つの
「ありませんでした」のあとに間をあけます。「おいもや豆やかぼちゃ」を
ひとまとめにして読みます。「しか」を強めに読んで強調します。


練習文例(3)

 次の例文では、間のあけ方はどうでしょう。

 むかし、わたしも、ちっちゃな、かわいい?いいえ、ほんとにかわいい子
どもだったんです。


        
生源寺美子「たった一どのおねしょのはなし」より引用

 この一文の中には、読点が四つ、疑問符が一つ、あります。わたしだった
ら、次のような間を空けて・気持ちをこめて読みます。これも一つの読み方
で、あなたはあなたの読み方を考え出してください。


 
むかし(昔のことよ、ちょっと間をあける)、わたしも(そう、わたしも
よ、、軽く間をあける)、
ちっちゃな(「ちっちゃな、かわいい、」の読点
では間はあけても、あけなくてもいい)、
かわいい?(ほほえん・かわいら
しく読んで、そしてちょっとためらって・ちょっと間をあける)いいえ(ち
ょっとむきになって打ち消して)、
ほんとにかわいい子ども(ここで読点が
打ってないが、心持の間をあけて、改めて、ほんとよ・そうよ・かわいかっ
たのよ・という気持ちを出して)
だったんです。(自信をもって、断定して、
言う)

  例文で示したように、読点のない文章個所でも、間を空けないで読んだ
ほうがいい個所もあります。読みの調子や雰囲気の出し方で、間を空けるか、
空けないか、どれぐらいの間にするか、などはかなり読み手によって違って
きます。

  ここで問題にしたいことは、疑問符の間についてです。この文では、四
つの読点ではいずれも間を開けないで読むこともできます。疑問符のあとの
みにちょっとした間を空けて読みます。「かわいい」と言って、(自分のこ
とを「かわいい」なんて言っていいかな、)という、ためらいの気持ちがち
ょっと押し出します。そして、(そうよ、わたしだって、かわいかったわ
よ、)という、居直った気持ちで次を読み進めていきます。「いいえ、」の
最初の「い」を強めの声で読み出して、つまり転調にして、この気持ちの変
化を音声に出して、そして全体は、間や声のつめや上げ下げや緩急変化など
で、読み進めていきます。

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