音読授業を創る そのA面とB面と     05・2・26記




  
「きゅうこんのめがでた」の音読授業をデザインする




●「きゅうこんのめがでた」(小泉周三)……………………教出5下




           きゅうこんのめがでた


                    小泉周三

          いのちのかたまりから
          いっぽんのきばがでてきて
          ぐさりと
          そらをつきさした

          そらはなんにもいわないで
          とろりと
          きばをつつんだ




           作者について(1)

  
  1950年、茨城県生まれ。茨城大学教育学部卒。中学校の国語教師。
詩誌「みみずく」「牧場」同人。日本児童文学者協会会員。
  詩集には「海」(かど創房)、「こもりうた」(教育出版センター)、
「誕生日の朝」(教育出版センター)、「太陽へ」(教育出版センター)
  15歳の時、先天性・進行性の難病「網膜色素変性症」と診断される。
以来、この病気とつきあいながら詩を書く。


           作者について(2)


  作者・小泉周三についてのより詳しい紹介が、My HPに記述してあ
ります。
  My HP「音読・朗読・表現よみの学校」の「学年別教材の音読授業
をデザインする」の「5年生」にある「あなたへ](詩)をクリックしてくだ
さい。
 「あなたへ](詩)は、同じく小泉周三さんの詩です。そこに小泉周三さん
の紹介が上述より詳しく書いてあります。「あなたへ」の「参考資料(1)
(2)」をお読みくださると、本稿の詩「きゅうこんのめがでた」がより分
かりやすく、深く理解できるようになるでしょう。


          視点変えのおもしろさ


  球根の芽が出たら、それを見て「球根の芽が出たわ。あら、かわいい
わ。美しい花を咲かせ、立派な実をみのらせてね。」といとおしく感じ入る
のがふつうでしょう。ところが、この詩は「球根から牙が出て、ぐさりと空
をつきさした」という表現になっています。前者の見方は、球根を上(空
側)から見ている立場です。後者の見方は、下(球根側)から見ている立場
です。
  このように立場を変えると、「あら、小さな芽だこと。いとおしくて、
愛くるしくて、ほんとにかわいらしいわね。」から、芽を牙に喩えて「きば
が そらを ぐさりと つきさした」の見方に逆転することになります。わ
たしたちはここに詩人の、とぎすまされた見方、凡庸でない文学的な発想
と、鋭い感性の力に驚かされます。長年の日常的慣習にひたりきって、ステ
レオタイプの類型的思考に慣れきってしまった人々には、後者のような見方
には違和感を持つ人がいるかもしれませんが、この詩は、社会常識とは違う
見方、新鮮な見方があることに気づかせてくれます。こういう見方もあるの
か、成る程と、対象のつかまえ方の新鮮さ・裸形の表現のおもしろさに驚き
を持つ人々もたくさんいることでしょう。


             空とは何か


  第一連では、球根から芽が出て、ぐさりと空を突きさしたと、暴力性を
帯びた、鋭角的な表現になっています。しかし、第二連では、それにもかか
わらず「空は何も言わないで とろりと 牙をつつんだ」と書いてありま
す。
  「空」とは、何でしょうか。
   わたしは、こう考えます。
  「空」とは、大自然の恵み、特に太陽をさしているのではないでしょう
か。太陽によって与えられる大地の呼吸や息吹や暖かな空気、それらの恩恵
によって満ち溢れている動植物の生命力のことをさしているのでは、と思い
ます。
  空は何をも言わずに一本の牙をとろりと包み、温かく、やさしく育んだ
と書いてあります。空とは、太陽の光であり、風のそよぎであり、それによ
って動植物たちは旺盛な生命力と繁殖力が与えています。
  それを空(太陽)は、菩薩のようにデンと構えて何も言わず、にっこり
と微笑んで、誰にも平等に、愛情たっぷりに降り注ぎ、いつくしみ育ててく
れています。それが、「とろりと きばをつつんだ」という表現だろうと思
います。
  あるいはまた、こういうことかもしれません。この詩の作者・小泉周三
さんは目の進行性難病を患っています。少しずつ進行しています。
  そうした小泉さんの命の塊り(牙、芽)をも大自然の摂理(太陽)はや
さしく温かく包んでくれている、周囲の人々(社会)もやさしく温かくつつ
んでくれている、という思いが最後の二行にこめられているのかもしれませ
ん。これまで書いてきたようなことを含めたダブルイメージとして書いてい
るのかもしれません。
  あるいは、未分化に善とも悪とも不分明に誕生してくる動植物の命を牙
(植物の芽、動物の赤ちゃん)に喩えているのでしょうか。それを自然の摂
理は温かく育むと言っているのでしょうか。いろいろと想像はふくらみま
す。
  さて、みなさんの学級児童はどう読みとるでしょうか。読み取り方は自
由です。自由とは言っても、好き勝手ということではありません。語・句・
文・文の連なりに即して読みとらなければなりません。


            オールひらがな


  この詩は、オールひらがなで書かれています。5年生教材なら、たくさ
ん漢字を使用した記述ができるはずです。オールひらがな記述にした理由が
ありそうです。もちろん原詩は、オールひらがな記述なのでしょう。教科書
編集者が漢字を使用しなかった理由がありそうです。
  これについても、学級児童たちと話し合ってみましょう。次のような漢
字使用の記述と、オールひらがな記述と、二つを比較させるのもいいです
ね。


           球根の芽が出た

                 小泉周三

         命の塊りから
         一本の牙が出てきて
         ぐさりと
         空を突きさした

         空は何にも言わないで
         とろりと
         牙を包んだ


  わたしの考えでは、この詩の主題は最後の二行にありそうです。自然の
摂理(太陽)は恐ろしい牙をも愛情いっぱいにとろりと温かく包むというこ
とであり、このテーマを表記するには、漢字という鋭角で堅固で硬直で剛正
な凍氷している漢字でなく、ひらがなという流麗で軟柔で柔和で暖衣な温気
な感じの文字記述がぴったりだ、ということからだろうと思います。


            音声表現の仕方


  一つ一つの発音を、明瞭に、はっきりと、力強く発音しましょう。
  読みとったイメージを押し出すつもりで音声表現しましょう。
  第一連はひとつながり、第二連もひとつながりの文になっています。行
間を区切って間を開けて読みつつも、ひとつながりの息づかいで読みましょ
う。途中で言い納めにならないようにしましょう。
  第一連と第二連とのあいだは、たっぷりと間を開けます。
  第一連は「いのち。かたまり。いっぽん。きば。ぐさり。つきさした」
などの単語を、粒立て、やや強調して音声表現すると、めりはりが出てくる
でしょう。
  第二連は「なんにもいわないで。とろり。つつんだ」などの単語を、粒
立て、やや強調して音声表現すると、めりはりが出てくるでしょう。


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