父母と教師に役立つ学級懇談会の話材集    2015・2・23記




        
自立心の育て方




 親の願いは、わが子が、いつ、どんな場面に出会っても、放り出されても、
たくましく生きていける人間に育ってほしい、ということでしょう。親が夭
折(早死)しても、くいばぐれのない、自立した生活ができる人間に育って
ほしい、ということでしょう。苦難の場面に出会っても、自力で生き抜いて
いける強い人間に育ってほしい、ということでしょう。
 そのためには、わが子に、自立心を身につけることが重要となります。
「自立心」とは、自分のアタマで考え、自分ひとりで判断し、他人に頼らず
に、独立独歩で正しい行動を選択していく力のことです。親の手助けなしに、
子ども自身が自主的に判断して独力で行動していける力を身につけさせるこ
とが重要です。
 自立心を育てるために、家庭では、どう指導すればよいでしょうか。日常
の生活習慣のしつけ指導を通して、自分で判断して身辺を処理していく力を
身につけさせていけばいいのです。
 乳幼児期では、親の十分な愛情で、理屈でなく、からだに覚え込ませるよ
うに身辺処理の行動を身につけさせていきます。犬のチンチン、オアヅケと
同じように、文句なしの行動様式の習慣づけをしてて身につけていきます。
 学童期では、親の行動(見本)を見せて、知らず知らずのうちにまねしな
がら、言葉でも教えていきながら、身につけていきます。そのためには両親
が手本をわが子に示している必要があります。両親の自立した行動(姿)を
みせて、見習わせていくようにします。わざとこうするのよ、と見せるので
なく、子どもがひとりでに、いつのまにか刷り込まれている、というように
します。子どもは親の背中を見て育つ」とは、まさにこのことを言っていま
す。こうして、しだいに親離れさせて自立心を身につけていくようにします。

 では、両親は、わが子に自立心を育てるためにどんな指導(背中・姿)を
すればよいか。
 次に、上手に自立心を育てるための指導方法や留意事項について書いてい
きます。


   
(1)先回りした世話をやかない


 よく気のつく母親がいます。わが子の行動の先回りをして世話をやく母親
です。わが子の行動の先々を、母親があれをしなさい、これをしなさいと口
やかましく指示します。
(子どもが起きようとすると)……早く起きなさい。時間ですよ。
(起きだすと)……早く服を着なさい。
(服を着てると)……歯を磨いて、顔を洗いなさい。
(ご飯を食べてると)……時間割をそろえなさい。
(時間割をそろえてると)……集団登校でみんなが待ってるわよ。
              忘れ物はないのね。
              ハンカチ、チリ紙を持ったの?
            今日の図工は何なの。持っていく道具はないの?
 これでは、子どもは母親のコトバがないと行動が始まらない癖がついてし
まいます。母親まかせの、のんびりした子に育ちます。子どもは「お母さん
に言われたら、はじめればいいや」という気持ちになり、母親のコトバ待ち
の子になってしまうでしょう。
 学校の忘れ物をすると、「お母さんが言ってくれなかったからだ」と、母
親のせいにしたりします。


≪母親の世話のやきすぎがダメにする≫

子どもがのんびりするのでなく、母親の方がのんびりしているぐらいでいい
のです。母親がボッケッととして、のんきですと、子どもの方がしっかりし
てきます。母親が先回りして世話をやきすぎると逆効果になり、自立できな
い子になってしまいます。
 親は心を鬼にして、口出しや手出しをしたくなる自分をぐっと抑えて、自
分に意思に逆らうことにします。この逆らう忍耐強さに欠けると、わが子は
ますますグズで、ノロな子に育ってしまいます。


≪同じ兄弟なのに、どうして違うの? ≫ 

 同じ教師が同じ兄弟姉妹を受け持つことがよくあります。母親は、教師に
よく言います。
「同じ育て方をしているのに、どうしてこんなに性格・行動の違う子どもに
なったのでしょうか。」
 これは、母親は気づいていないでしょうが、同じ育て方をしていないから
です。一般的に、長男はおとなしくて消極的な子に育ちます。次男はやんち
ゃ坊主で積極的な子に育ちます。
 母親は、長男のときは初めての子であり、子育てに不安もあって、あれこ
れと先回りして世話をやきすぎる育て方をします。また、極端に子どもの要
求を拒否して厳しいしつけをしたりもします。弟(妹)が生まれると、あな
たはお兄さんだから、と抑えつけた育て方をします。
 次男(妹)のときは、長男の育児体験があるので、育児に慣れてきており、
子どものやんちゃな行動にも驚かず、ずぶとくなっており、細かいことに気
を使わず、大らかに、のびのびと育てるようになります。だから、次男
(妹)は神経の図太い、積極的で、大胆な行動をする子に育つのです。
 母親は、できるだけ早く子離れをするようにしましょう。そうしないと、
親離れできない依頼心の強い子ができてしまいます。母親の中には、親離れ
した子どもは永遠に親から去ってしまって淋しくなる、ひとりとり残されて
しまうと不安を感じる方もおられるでしょう。でも、そうしないと、子ども
は立派に自立心のある人間に育ちません。

           
参考資料(1)

下記は、読売新聞(2014・12・28)の投書欄「気流」に掲載されていた記事
です。下記の二つとも、同日、同欄に掲載されていた投書記事です。

        使い方が両極端
              主婦 中山智江 59 (東京都小金井市)

 息子二人が、まだ小中学生の頃の話です。毎月、小遣いを渡すのですが、
長男は、自分の引き出しに大事にしまい込みます。一方の次男は、すぐに使
ってしまいます。二人ともわたしのおなかから生まれたのに、こうも違うの
か、とつくづく感じました。
 次男の使い方を気にした私が、「お兄ちゃんを見習いなさい」と注意する
と、「お金は使うためにあるんだよ」との返答。そう切り返されて、それも
もっともな話だ、と思え、思わず苦笑いしてしまいました。
 それぞれ30歳を過ぎた今も、二人のお金の使い方は、変わっていないよ
うです。足して二で割るとちょうどいいのですが……。


        姉弟でバランス
              主婦 木村麻季子 35 (東京都日野市)

 私には弟がいます。小さい時、父の仕事の関係で、海外に住んでいました。
小学3年生の時、日本に戻って初めてお年玉とお小遣いをもらいました。
 弟は1年生でしたが、私と同じようにお年玉とお小遣いをもらっていまし
た。私は母に何度も文句を言いました。「私は3年生で初めてなのに、弟は
1年生からもらえるなんてずるい」
 今や私も2児の母親となりました。上の子は何でも新品を与えられ、何か
とお金をかけてもらえます。姉あるいは兄は、損ばかりではないのです。得
をしていることもあります。人生は損と得の繰り返しで、バランスが取れて
いれば、いいのかな、と思えてきました。


           
参考資料(2)

下記は、毎日新聞(2015・2・11)の投書欄「みんなの広場」に掲載されて
いた記事です。この投稿を読んで、わたし(荒木)は、子どもは親のまねを
して育つ。兄弟姉妹は、上の兄姉のまねして育つ。こうして親子は、兄弟姉
妹は、似た者同士に育つ、ということだと受け取りました。これは、上で述
べたこととは逆の例ですが、こうした両側面があることも認めなければなり
ません。

       妹のいい手本となる姉に
              中学生 田中瑞穂 13 (堺市西区)

 私には妹がいます。5歳離れています。妹は私のまねをしてきます。同じ
服を欲しがったり、同じことを言ったりしてきます。そういう妹をすごくう
っとうしく思うときもあります。
 しかし、私も同じように自分より年上の人のまねをしていたと母から聞き
ました。その時、私は妹のことを考えました。私はどのように見えているの
かなと思い、妹に聞いてみると、「おねえちゃんみたいになりたい」という
答えが返ってきました。
 私はうれしい気持ちになりました。私のまねをしてくれるということが、
すごくうれしく思えるようになりました。
 こんな私のことをまねしてくれる妹をこれからも大切にして、仲良くして
いきたいなと思います。そして、姉として、もっといいお手本になりたいと
考えるようになりました。
 皆さんもかけがえのない兄や姉、妹、弟を大切にしてください。


≪おねしょする子≫

 おねしょする子がいます。なんとかおねしょを直したいというのが親の願
いでしょう。母親が先回りして世話をやきすぎると、おねしょはいつまでも
直りません。母親が時計を見ながら、「ハイ、トイレ」「ハイ、トイレ」と
一定の時間の間隔でトイレに行かせては、おねしょは直りません。
 おねしょは、ほんの少し膀胱に尿がたまっても括約筋がゆるんで出てしま
う状態になることから起こります。母親が「さあ、我慢して」と我慢させて、
膀胱の括約筋をギュッと締めて我慢する感覚を身につけさせることです。
 おしっこが出そう、我慢しよう、括約筋を締めている確かな感覚がある、
この感覚を三分、五分と持続させてやるようになれば、おねしょは直るよう
になります。母親が先回りしてトイレに行かせる指示ばかりしていては、い
つまでたってもおねしょは直りません。


 
(2)子どものコトバ(行動)を奪わない


 わが子が隣りのおばさんからチョコレートを一箱いただきました。隣りの
おばさんが「今日、大売り出しのクジを引いたら、チョコが六箱、当たった
のよ。これ、一箱、あげるね」と言いました。
 子どもが「ありがとう」と言おうとしている矢先に、母親が「あら、そう
だったの、クジ運がいいのね。よかったわね。ありがとうとお礼を言いなさ
い」と命令します。母親のでしゃばったコトバが、わが子からコトバを奪い、
わが子の言語表現能力を貧弱なものにし、自立心が育つ芽を摘みとってしま
うことになります。これでは、わが子は一人立ちできません。

 母親がわが子を連れて叔母の家に行きました。
叔母「あら、大きくなったわね。ぼく、いくつになったの?」
母親「からだばかり大きくなって、恥ずかしいわ。四歳二カ月です」
叔母「今日は、何に乗って来たの」
母親「ほら、バスと電車に乗ってきたんでしょ」
叔母「食べ物では何が好きかしら? 今晩の食事は何にしようかしら?
   ぼくは、カレーライスがいい、それともハンバーグがいい?」
母親「この子は好き嫌いがないの。両方とも大好きなのよね。そうね、カ 
   レーライスのほうがいいわね」

 子どもに話させないで、母親がみんな答えています。母親は子どもの希望
をさしおいて、自分の食べたいカレーライスを要求しています。これでは子
どもの言語能力が伸びるはずがありません。依頼心が強くなり、他人から話
しかけられると、母親の顔を見上げ、母親の背中に隠れてしまい子どもに育
ってしまいます。
 モタモタした話し方をする子どもがいます。話しに戸惑う話し方をする子
どもがいます。大人と話しているわが子のモタモタした話し方を聞いている
と、母親としては、まどろっこしくて、じれったくなることもあるでしょう。
 しかし、自分の意思を積極的に話せる子に育てるためには、子どもにうん
と話すチャンスをわざと与えることがよいのです。母親としてはじれったく
なり、先回りした行動をとりたくなるでしょうが、それをじっと我慢できる
か、できないか、これがよき母親か、ダメな母親かの別れ道です。子どもに
わざと話させる機会をうんと与えるように気遣う母親になりましょう。


 
(3)子どもが創意工夫する機会を与える


 自立とは、「ひとりで……ができる」ということです。ひとりで早起きが
できる、ひとりでおつかいに行くことができる、ひとりで遊び道具の後始末
ができる、風呂場でひとりで頭や身体を洗うことができる、バスや電車に乗
ってひとりで隣り町の図書館へ行って本を借りてくることができる、という
ことです。
 もちろん、母親が口を出したり、手を出したりしたほうが早く、仕上がり
も上手にいくことは当然です。しかし、早い、遅い、仕上がりの上手下手が
問題ではありません。ひとりでやることが大切なのです。ひとりでやること
を覚えなければ、いつまでたっても自分でする習慣が身につきませんし、早
く、上手にできるようにもなりません。
 小学校1、2年生になれば、ひとりでるす番ができるようにさせたいです。
子どもにるすを頼み、留守中にどう配慮すればよいか、注意事項を教えて外
出します。玄関のチャイムが鳴ったらどう対応するか、夕食はどうするか、
戸締りはどうするか、などについて話して外出します。
 るす中に予想してなかった事柄も起こるでしょう。小包が届いたり、新聞
の集金人が来たり、町内の連絡電話が入ったりなどすることがあるでしょう。
子どもはひとりでるす番をしていて、心細くなったり、不安な気持ちになっ
たり、へんなおじさんが来たらどうしようという迷いなども持つことがある
でしょう。
 帰宅した母親は、子どもがひとりでるす番ができたことを大いに褒めたや
りましょう。子どもは不安な、心細くなった気持ちを乗り切った充実感でい
っぱいでしょう。自分ひとりでるす番ができたことに大きな自信を持つこと
になります。
 小学校3、4年生になれば、子どもが自分のアタマで考えて判断し決定す
る機会、創意工夫する機会を増やしてやるようにします。子どもに考えさせ
る場面、困らせる場面を与えるようにします。手伝いを頼むにも、母親がす
べてセットしてやり、子どもは母親の言った段取のとおりにやればすむよう
な手伝いは与えないようにします。子どもが主体的に判断して行動を選択し
ていく個所を作って、手伝いを頼みます。
 母親が「草むしりをしなさい」とだけ指示します。特別に必要な指示は与
えますが、軍手はどうするか、シャベルはどうするか、素手でむしりとるの
か、庭のどの範囲か、取った草はどこに集めるのか、これらは子ども自身の
主体的な判断と行動の選択に任せます。自分で手段、方法をを選択し決定さ
せて、自分で判断して行動するようにさせます。
 果物屋へ行って、七百円以内で、店頭で、おいしそうなリンゴを3個、自
分でみつくろって、買っておいで」と頼みます。子どもは、店頭にならんで
いる多くの種類のリンゴを見て、七百円以内の金額で、おいしそうなのをと、
いろいろと悩みながら買うことになります。
 子どもは自分のアタマで判断して買わなければなりません。子どもに「自
分で判断しなさい。自分で選択していいですよ」とつっぱねます。たまには
失敗させてもいいでしょう。失敗が、次の成功を導くようになります。
 中学生になれば、母親がるすの時は、自分で電気炊飯器でご飯を炊いて、
カレーを作ったり、福神漬けを買ってきたりして、自分ひとりで夕飯のした
くができるまでに自立させたいものです。味噌汁をつくったり、魚を焼いた
りするまでに自立させたいものです。
 母親がすべてセットしてやるのでなく、子どもに判断させる場面、まかせ
る場面、困らせる場面、工夫させる場面を与えて、自分で考え、選択して行
動していく機会を多く与えるようにします。


    
(4)甘やかした手出しをやめる


 あなたは、次の母親(A、B)のどちらでしょうか。

 母親が子どもを公園に連れていきました。子どもは公園の広場で遊具を見
い出し、喜こび勇んで走り出しました。石につまづいて転び、大声で泣き始
めました。

 母親Aは、すぐに走り出して、子どもを抱き起こし、「あらあら、かわい
そうに、脚をすりむいて血がにじんでいるわ。痛かったでしょう。いい子だ
から、泣かない、泣かない」と言いながら、洋服についた泥を手で払い、子
どもの頬に流れている涙をハンカチでふいてあげました。

 母親Bは、子どもが転んで泣いても、子どものそばにかけよりません。子
どもが自分で起き上がり、母親のそばまで来るように指示し、そばに来るま
でじっと待っています。そばに来ると、「えらい、えあらい、自分で起き上
がってここまで来た、えらいぞ、えらいぞ。あなたは強い子です。強い子は
泣いたり、涙を流したりしないはずよ。すり傷なんて平気よ。ほっぽってい
ればしぜんと直るわよ。自分の手で洋服の泥を落としてごらん。落とし終わ
ったら、あそこにある水道で手と顔を洗っておいで」とコトバをかけます。

 母親Aのような対応をすると、子どもは依頼心が強く、甘えん坊になりま
す。転んだのは母親のせいだと言って泣きじゃくったりもします。これでは
自立心のある子には育ちません。
 母親Bのような対応をすると、自立した、たくましい子に育ちます。転ん
でも自分で立ち上がる行動力のある子になります。母親の気持ちとしては、
子どものそばへ走り寄って、手を出し、やさしいコトバをかけてやりたくな
るでしょうが、それをじっと我慢して見守ってやる心の余裕が必要です。母
親は遠くから激励し称賛のコトバをかけてやるようにします。子どものそば
へ行って余計な手出しをするのは慎むのがいいのです。自立心を育てるには、
結局、親が手出しをしたくなるのをどこまで我慢できるかにかかっているの
です。もちろん、転び方の様子によっては、すぐに駆け寄る場合もあります
が、そのへんは臨機応変に対応します。
 母親には、子どもが失敗しても、子どもが最後までがんばるのを時間をか
けて見守る忍耐強さが必要です。子を持つ親であれば、誰でもわが子にあれ
これと手をかけてやりたくなるのは当然です。母親は横で見ているのが歯が
ゆい思いをするでしょうが、それをじっと忍耐強く見守るだけの心の余裕が
重要です。心を鬼にして黙って子どもの横で見守る忍耐心を持つことです。
これが子どもの自立心を育てるための、遠回りのようで近道の方法なのです。


  
(5)ダメと言ったら最後まで許さない


 子どもの問題行動の発生は、すべて子ども自身にあると考えがちですが、
これは間違いです。母親のしつけ方に誤りがあって起こることが多いのです。
「問題の親がいるのであって、問題の子どもはいない」などとも言われます。
つまり、母親の子どもへの対応の仕方に問題があります。
 こんな母親がいます。
「テレビばかり見てないで、さっさと耳鼻科へ行って中耳炎の治療をしてき
なさい」と指示します。しかし、子どもはテレビに夢中です。テレビから離
れようとしません。母親はコトバをかけはしましたが、子どもにテレビを見
せっ放しにしたままです。
 母親の心の中では、「子どもがテレビをおもしろそうに熱心に見ている。
むげにスイッチを切るのは可哀そうだ」と考えて、しぶしぶながらも見せっ
放しにしているのでしょう。
 これはいけません。母親は非情だと思わないで、直ちにスイッチを切るこ
とが重要です。「耳鼻科へ行け」と命じたら、直ちにその行動を開始させる
ようにします。
 夕食前に、母親が「遊んだおもちゃを片付けなさい。手を洗って、それか
ら夕食を食べなさい」と指示しました。子どもは、おもちゃを片付けようと
もしませんし、手を洗おうともしません。とうとう、おもちゃを出しっぱな
しにして、手も洗わずに夕食を食べ始めました。
 母親は、子どもが夕食を食べている間に、「あら、あら、出しっぱなしに
して。全くだらしなくて困るわ」と小言を言いながら、母親がおもちゃを片
づけています。
 これではいけません。母親はいっぺん指示を出したら、冷血漢だと思わな
いで、子どもに直ちにおもちゃを片づけさせ、手を洗わせ、それから、夕食
を食べるようにさせます。
 わが子が、かわいそうだ、ふびんだ、と思ってはいけません。子どもを甘
やかしてはいけません。「自分の子どもは他人だと思え。他人の子どもは自
分の子どもだと思え。こうしてしつけよ」と言われることがあります。これ
ぐらいの厳しさでしつける必要があります。一度、ダメと指示を出したら、
あとは妥協しないことです。徹底して守らせることです。ということは、母
親が、どんな場面で、どんな指示コトバを言うか、が重要です。安易に、思
いつきに、出まかせに指示コトバを出してはいけません。
 母親の心の中では、(非情な方法で、すぐやり直しをさせると、子どもは
機嫌を悪くするだろううし、かわいそうだ。ふびんだ。そこまでしなくても
いいだろう)などと考えて、見て見ぬふりの態度をとってしまいがちです。
確かに母親が「ダメ、すぐやりなさい」を押し通すのは忍耐がいります。冷
血漢で非情なように思われます。しかし、「ダメ」の指示が、すぐに「しよ
うのない子ね」と変化してしまっては、母親の小言は多くなるばかりですし、
子どもは母親の小言を無視してしまうようになっていきます。わがままで横
着な子どもに育ちます。母親のいいつけを知らんふりな態度で、無視するよ
うになります。子どもはますますつけあがってしまい、母親のコトバを相手
にしなくなります。一度、要求や指示を出したら、それを徹底して守らせま
しょう。むやみやたらに要求や指示を出していたら、これまたいけません。
仏要最小限の要求や指示にしましょう。


 
(6)親が率先して手本をやって見せる


 上手なしつけの方法は、親が「こうしなさい」とコトバで教えるのでなく、
「これを見てなさい。あなたも、こうやりなさい」と、親がやって見せて教
えていくとうまくいきます。親がコトバだけで「ああしなさい、こうしなさ
い」と、口数多くで教えるのでなく、親が見本を見せて、それを模倣させて
いくのが効果的です。
 親が、子どもに茶わんの洗い方、お風呂での身体の洗い方、洗濯のしかた、
掃除のしかた、卵焼きの作り方などを教えるとします。親が具体的に見本を
やってみせます。「ほら、お母さんのやるのをみててごらん。ここを、こう
やるとうまくいくのよ。今度は、あなたが、ちょっとだけでいいから、やっ
てごらん。あら、上手ね。とっても上手よ。ここを、こうすると、もっと上
手にできるわよ。そう、そう、上手、上手、お母さんよりも上手だわ。」と
指導していきます。
 自立心を育てるには、自分ひとりでやるチャンスを多く与えるようにしま
す。
 洗濯物を干したり、取り入れてたたんだり、部屋の掃除をしたり、料理を
したり、家の前の道路や庭の掃除をしたり、お風呂の後始末をしたりする時
は、子どもと一緒に「こうするとうまくいく。仕上がりがとてもすっきりす
る」ということを語り合いながら見習わせていきます。自分一人でできるよ
うになったら、褒めると同時に感謝のコトバを与え、自信を持たせます。
 「指導」という漢字は「指でさして導いていく」と書きます。最初は親が
具体的にやってみせて、同時にやり方の話もして、上手にできるコツの話し
も聞かせていきます。次に、実際に子どもにもやらせてみます。そして、下
手でも上手、上手、初めてにしては、とっても上手よ、と褒めてやりましょ
う。ひとりでやる機会を多く与えて、慣れさせていくようにします。「ひと
りでやったの。上手にできているよ」と褒めてやります。
 大人は、「今の若者は挨拶もろくにできない」と非難します。非難する前
に、大人のほうから先に若者に挨拶をしましょう。年上から挨拶するなんて
情けない、などとひがみっぽいことを言わないで、大人から先に見本を示し
てやりましょう。大人のほうから若者に「おはよう」「こんにちは」「こん
ばんは」「大きく成長したね。身長は何センチ?」「頑丈なからだね。ス
ポーツは何をやっているの」と声をかければ、やがて、若者の方からも声を
かけてくるようになるでしょう。
≪参照≫
 本章【12】の「家事への参加のさせ方」にも、以上と同様な『(4)初め
は親が手本を示してまねさせる』について書いてあります。具体例の参考資
料(1)(2)も付記してあります。そちらも参照しましょう。


 
 (7)親から先きに挨拶・謝罪を言う


 家庭内における親子の挨拶も同じです。親の方から先に「すみません」
「ごめんなさい」「おはよう」「おやすみなさい」「いただきます」などを
言いましょう。子どもは、しぜんとそれをまねするようになります。やがて
子どもの方から進んで言うようになるでしょう。家族全体がそれを言う雰囲
気になるでしょう。
 夜、子どもが寝ようとする時に親から先に「おやすみなさい」と声をかけ
ます。朝、起きて顔を合わせれば、親から先に「おはよう」と声をかけます。
夫婦同士で「ありがとう」「ごめんなさい」「すみません」というコトバを
気軽に交わしていれば、子どもも自然にそれをまねして言うようになります。
こうした家庭の雰囲気作りが大切です。

 子どもの問いかけに対して返事をしない親がいます。
子「いってきまーす」
親「………」
子「ただいまー」
親「………」
子「おやすみなさーい」
親「………」
子「郵便受けから新聞をとりいれたよ」
親「………」
 これでは困ります。子どもが「いってきまーす」と言ったら、親はすかさ
ず「いってらっしゃい」と応答しましょう。子どものお手伝いには「ありが
とう、助かったわ」とか「おつかれさま」とか「上手にできたね。すごく上
手にできたよ。」とか、謝意や賞賛のコトバを与えるようにします。


   
(8)小言をいわずに放っておく


 母親のいつものコトバが始まりました。小言のシャワーが始まりました。
「早く起きなさい。学校に遅れるわよ」がまた始まりました。顔を洗え、歯
を磨け、パジャマを脱いで早く着換えろ、トイレへ行け、学校の勉強道具を
そろえろ、朝食を食べろ、などの小言(指示?)が始まりました。一度に三
つも四つもの指示が口やかましく出ます。子どもは母親の小言には耳にタコ
ができていますから、のんびりとテレビを見ています。
 毎朝こんな状態が続いていてはいけない、何か別の方法を考え出さなくて
はと考えます。考えついた方法は、母親がいっさい口出しをしないで放って
おくことでした。
 これはたいへんに効果がありました。母親がいっさい口出しをしないで放
っておくのですから、こんな簡単なしつけ方法はありません。母親は、子ど
もの行動には無視した態度をとり続けます。朝、いつまでも寝かしておきま
す。小言をいいません。そのまま放っておきます。学校に遅刻しても、自分
で自覚するまでに、何十回でも遅刻させることにします。
 第一目は、顔も洗わず、歯も磨かず、朝食も食べずに急いで学校へ行きま
した。一時間目の授業に20分ほど遅刻してしまいました。
 第二日目は、朝食だけは食べて、遅刻しないで行けました。夕方のことで
す。A君の家では五時半に遊びから帰る時刻に決まっています。夕食時刻が
六時半に決まっています。A君は六時半になっても遊びから帰ってきません。
母親はA君が帰宅するまでに待つことをしませんでした。夕方、六時半にな
るとA君抜きで、さっさと夕食をすまして片づけてしまいました。結局、A
君はその日の夕食を食べずに翌朝を迎えることになりました。
 第三日目は、A君は、これはいかんと自覚したのでしょう、目ざまし時計
のチャイムで布団から抜け出しました。母親の指示なしで次々と自分から進
んで行動するようになりました。お母さんが言ってくれないから洗顔を忘れ
た、お母さんが言ってくれないから学校の忘れ物をした、もうそんなことは
なくなりました。第四日目も、第五日目も、自分からテキパキと行動するよ
うになりました。
 スズメの学校の先生は「ムチをふりふりチーパッパ」の教師たちです。メ
ダカの学校の先生は「だれが生徒か先生か」が分からない教師たちです。し
つけの方法は、一つだけではありません。これがダメなら、別の方法をでや
ってみるのがよいのです。母親のしつけの方法も、スズメの学校の指導方法
を用いたり、メダカの学校の先生の方法を用いたり、さまざまな方法を試み
ていくようにします。
 母親が一言も口出しせずに放っておく方法も、たいへんに効果のある方法
です。しかし、長期にわたって無視し続けると、陰湿なイジメになってしま
います。これは短期の方法として用いるべきで、長期になると悪影響の方が
大きくなります。子どもの存在を全く無視した行動は、放任主義ではなく、
拒絶主義のしつけになってしまいます。厳格な育て方をしているという大義
名分で、実は陰湿なイジメになってしまうのです。
 極端に子どもを拒否し、愛情を薄くすると、ひがみっぽい性格、ひねくれ
た性格、いじけた性格、他人の顔色ばかりをうかがうおどおどした性格に育
ちます。乳幼児期では、指しゃぶり、夜泣き、爪かみ、下痢、夜尿などの症
状を呈します。長期になりそうな時は、別の方法を考え出しましょう。


    
(9)子どもに選択権を与える


 自立とは、自分のアタマで考え、自分でどうするかを決定し、自分の自主
的判断で行動していく力のことです。つまり、独立独歩の行動ができること
です。
 自立を育てるには、親の考えを一方的に押し付けるのではなく、親の考え
を差し控えて、子どもの判断を尊重しながら行動させていくようにします。
子どものやり方がまずくても、のろくても、親の手出し、口出しは控えるよ
うにします。まずいところは時間をかけていけば上手になっていくはずです。
親は、褒め上手、励まし上手、やらせ上手になって、子どもの自主的行動を
応援していくようにします。
 かわいい子には旅をさせよ、という格言があります。これは、親の過保護
な手出しはしないで、子どもをつき離して育てよ、そうすればうまくいく、
という意味です。吉川英治(作家)さんは、娘に「お前にいちばんすまなか
ったと思うのは苦労をさせてやれなかったことだ」と語ったそうです。子ど
もに苦労をかえさせて育てること、これが子育てにとっても必要なことです。
親の過干渉な手出しや口出し、やってあげは、子どもをダメにする方法です。
 自立性を育てるには、子どもが自分のアタマで考える場面、子どもが判断
に迷う場面を与えて、子ども自身が積極的に工夫したり創造したりしていく
場面を多く与えるようにします。子どもはモタモタした行動をする場面もあ
るでしょうが、こうした行動は、どうしようか、こうしたらどうかな、と考
えをめぐらしている結果ですから、途中から親は口出しをしないようにしま
す。モタモタした行動から、創意工夫する力、構想し創造する力が生まれ出
てくるのです。モタモタした行動を積み重ねていくことで習熟や熟練の身体
化が行われていくようになります。
 親は、子どもに責任ある行動を選択する場面を多く与えるようにします。
子どもにそうした場面を多くセットしてやります。「……をしなさい」では
なく、「どうしたらいいと思う?」と、問いかけ、子どもが自主的に判断を
下して行動を選択していく場面を多く与えましょう。「こんな時、どうした
らいいかな。困ったな。どうしようか? あなたの考えを聞かせて」と、子
どもに親が相談を持ちかけるのもいいですね。
 親がこまごまと指示をするのでなく、子どもに選択権を与えて、責任ある
行動をさせていくようにします。
「今日、つめ切るの? それとも、明日、切るの?」
「耳鼻科へ何時にいくの? 」
「今日は、お風呂の水に入れ替えをするんでしょ。笛の練習の宿題が出てる
 ね。練習の前にするの? 練習のあとにするの?」
「今日、親戚のおじさんの家に行きますか。それとも明日、行きますか。あ
なたの都合に合わせていきますよ。」
「あら、電灯がつかないわ。どうしたのかしら。あなたはどう思う?」
「お父さんの帰りが遅いわね。どうしたらいいかしら?」
 子どもを、ひとりの大人と認めて、大人と相談するするつもりで、わが子
に相談をもちかけます。こうして、自分のアタマで考え、判断し、行動し、
自分の生活を切り開いていく力を身につけさせていきます。

           
参考資料

 下記は、毎日新聞(2015・2・6)の投書欄「みんなの広場」に掲載されて
いた記事です。

       親に甘えず自立したい
              中学生 流 妃菜 14 (大阪府高槻市)

 自立するということは、とても大変なんじゃないかと思います。
 私には三つ上の兄がいます。兄は家から離れたところで寮生活をしていま
す。いつも家のことは母親にまかせたばかりいたので、寮生活は大変だと言
っています。私は今、中学生なので親から離れて生活することはありません
が、もうすぐ高校生になるので、自分でも自立しなければならないと思って
います。
 しかし、どうすれば自立できるかが分かりません。何となくですが、親に
何でもまかせているかぎり、自立はできないと思います。しかし、それが分
かっているにもかかわらず自立できないというのは、まだ親に甘えている自
分がいるということだと私は思います。だから、これからは家のことを母に
まかせるのではなく、自分から積極的に取り組み、親から離れても大丈夫だ
と思えるようになりたいです。



    
(10)時間の計画管理をさせる


 母親が台所仕事をしながら、寝ている子どもに向かって、こう言います。
「早く起きなさい。学校に遅れますよ」と呼びかけます。子どもがベッドか
ら抜け出すと「枕元に洋服の着替えがたたんであるでしょ。パジャマを脱い
で、早く着替えなさい」と呼びかけます。こどもが着替えている最中に「早
くトイレへ行きなさい」と言います。トイレの最中に、トイレに向かって
「次は、歯磨きよ」と言い、歯磨きの最中に「顔を洗って、かわいたタオル
でふきなさい。次は、朝ご飯よ」と言い、朝食の席に着くと「いただきます
を言って、早く食べなさい」と言います。
 母親が、子どもの行動の先々を口やかましく指示します。これでは、母親
の命令待ちの子にしか育ちません。母親の指示がないと行動できない子に、
依頼心の強い子に、独立心がない子に育ってしまいます。自立心が育たない
のは当然ですね。いつまでたっても親から言われないと行動できない子にな
ります。
 しつけるべきは、自分の行動について、自分で計画を立てて、時間を有効
に使っていく子に育てることです。自分の今日一日の中で何と何をやるのか、
まずやる内容をはっきりとつかませることです。そして、その内容に対して、
それぞれに何分(何時間)ぐらいか、その時間を配当させます。遊び、手伝
い、読書、マンガ、テレビ、勉強、塾、習い事、食事、風呂、就寝、これら
の中のどれに何分ぐらいの時間を当てるか、一日の日程表を作らせます。
 最初は親が子どもに助言してやり、一緒に計画プランを考え合いましょう。
自由時間も計画表の中に組み入れます。一日の行動をあらいだします。それ
を一日の生活時間の中に位置づけた生活日程表を作成します。こうすれば時
間を有効に使うくせがつきます。テキパキと、短時間で、集中して、次々と
行動していく子どもになります。
 自分が行動していくべき先々の内容が分かっていると、テレビを見終わっ
た、さあ、次は風呂に入る時間だ、その次は食事の茶碗ならべの手伝いをし
て、夕食だ、その次は算数の問題集を3ページ終わらせて、お母さんにそれ
を見せて、マルをつけてもらう、それが終わったら自由時間で、九時半にな
ったら寝る時刻だ。
 このように自分が行動していく先々の順序のイメージをアタマの中に持っ
ていることが重要です。このイメージがないと、のんべんだらりとむだな時
間を過ごすことになります。このイメージを持って、それを順序よく行動し
ていく子どもに育てることです。
 子どもが「次はこれだ。その次はあれだ。これもしなくちゃ、あれもしな
くちゃ。ああ、忙しい、忙しい」というイメージをもったらしめたものです。
このような自覚ができれば、時間を計画管理し、責任を持って実行する習慣
が身につくことでしょう。企画力が出て、人生に積極性が出てくるようにな
るでしょう。時間を計画管理する習慣を身につけましょう。


   
(11)きちんとした理由で説明する


 母親がわが子に、次のような叱り方をしました。皆さんはどう思いますか。

わが子が公園内の遊び場でゴミを捨てました。
   「公園を管理しているおじさんに叱られますよ」

わが子が家庭内で明日の勉強道具をそろえていません。  
   「忘れ物すると、先生に叱られますよ」

わが子が赤信号で横断歩道を渡ろうとしています。 
   「おまわりさんに叱られますよ」

わが子が歯磨きを忘れています。
   「歯医者さんへ言って、口の中に痛い注射をしてもらいますよ」

わが子が漢字テスト、35点でした。
   「こんな悪い点数、どうしたの。この漢字、知らなかったの。弟だっ
    て知ってるわよ。弟に教えてもらいなさい。弟の笑われるわよ」

わが子が、スーパー内で、ほしい品物が買ってもらえないと、だだをこねて
泣き出しました。
   「みんな見てるわよ。恥ずかしいでしょ。みんなに笑われるわよ」

 周囲の人々の目を気にして、周囲の人々に叱られるから、笑われるから、
という理由で教えさとして、止めさせようとしています。公園の管理人、先
生、おまわりさん、歯医者さん、恐怖の対象にしています。親しみやす人物
であることこそ教えなければならないのに、叱りつける恐い人物にしていま
す。
 公園内でゴミを捨ててはいけない理由、赤信号で横断してはいけない理由、
歯磨きをしなければならない理由、その理由を、それをしなかったらどうな
るか、分かりやすく具体例で、理屈をつらねて、説得的に説明すべきでしょ
う。みんなが公園内でゴミを捨てたら結果はどうなるか、赤信号で横断した
ら結果はどうなるか、歯磨きをしなかったら結果はどうなるか、その結果と
して起こるだろう具体的事実を分かりやすく説明してやるべきです。


   
(12)祖父母にしつけをまかせない


 両親が共働きの場合は、祖父母が同居していれば、祖父母が子どものめん
どうをみることになります。同居していなくても、祖父母が近所に住んでい
れば、祖父母に子どもを預けて働きに出ることができます。ガギッ子にして
おくよりは、祖父母に預けたほうが安全です。祖父母が元気なうちは子ども
を見てもらうようになるの普通でしょう。
 しかし、祖父母は孫をねこかわいがりする傾向があります。祖父母は、子
どもを、かわいい、かわいい、孫こそわたしに生きがい、と盲目的な溺愛を
して甘やかす育て方をしがちです。これが原因で、父母と祖父母とで子育て
の方法が違い、対立することがあります。双方に険悪な状況が作られること
もあります。祖父母は孫におこづかいをやたらにやります。ムダ使いの癖を
つけます。無制限に甘い菓子を食べさせます。何でも買ってやります。欲し
がりもしない品物まで買い与えます。
 これぐらいなら、まだ我慢できます。父母が子どもを叱っていると、祖父
母がそばから口出しをします。子どもの前で、父母のしつけ方を非難します。
父母に隠れて、孫に悪チエを授けます。孫の泣き声がすると、深夜でも夫婦
の寝室へノックもせずに入ってきて、泣いている孫の機嫌をとります。こう
なると、父母は堪忍袋の緒が切れます。特に、義母と嫁、義父と嫁との関係
は険悪となります。父親は中間位置でうろちょろと両方の顔をた立てるとい
うかわいそうな存在となります。
 巷に「おじいちゃん子」とか「おばあちゃん子」とかいわれます。甘やか
して育てられた過保護、溺愛のダメな子、依頼心が強く、小心翼翼で、積極
さや活発さがない、気の弱い甘ったれ子です。
 しかし、祖父母と同居することで、いいこともたくさんあります。父母が
安心して共働きができます。父母同伴で安心して外出できます。冠婚葬祭や
近所づきあいで分からないことがあれば、すぐ相談にのってもらえます。子
どものしつけでも、祖父母は、物を粗末にしない、後片づけをきちんとする、
食事作法、接客作法、礼儀作法、日常の立居振舞などを厳しくしつけてくれ
ます。このように祖父母と同居すると便利で重宝なこともたくさんあります。
 子育ては、父母がわが子を育てるのが本来の姿ですから、父母が祖父母に
子育てをまかせてしまうのは、特別な事情がないかぎり、やめたほうがよい
でしょう。あくまでも父母が子育ての主導権を握るようにします。祖父母の
ねこかわいがり、甘やかしの育て方については、父母は祖父母のメンツを立
てながらも、はっきりと申し述べて、改めてもらうところははっきりとお願
いします。父母は、そこは要領よく立ち回ることです。
 同じ屋根の下に住んでいるのですから、譲り合い、労わり合い、認め合い
の心でお互いに接するようにして、余計ないさかいは避けるように努めます。
父母は、祖父母に牛耳られていながら、牛耳っていくようにうまく立ち回る
ようにしましょう。どう要領よく立ち回るかは、各家庭の事情、双方の立場
や性格や性情によって違ってきます。


  
(13)習慣化するまで何度も繰り返す


 しつけは、習慣化するまで何度も繰り返すことです。一度、二度、口で教
えれば、それでしつけ指導ができた、と思っていてはいけません。
 しつけというものは、何度も、何度も、繰り返し、繰り返し、ひたすら繰
り返しの実行あるのみです。しつけ指導のコツは、何度も根気よく繰り返し
続けていくことです。コトバで教え授けるというよりも、むしろ身体に慣れ
親しませるという方法です。
 しつけは、一度これを教えさえすれば、それで出来上がり、というもので
はありません。日々これを実行して慣れ親しませ、知らず知らずのうちに身
についてしまっている、という性質のものです。実行を繰り返していくのみ
です。実行を繰り返していくうちに、ぎこちなさ・かたさ・かたぐるしさが
とれて、すっかりからだに浸み込んでしまっている、よい型ができてしまっ
ている、習慣化・血肉化してしまっている、という性格のものです。あとは
殊更に努力をしなくてもひとりでに美しい起居動作となって現れてしまって
いる、というものです。
            
参考資料

 下記は、毎日新聞(2015・2・6)の投書欄「みんなの広場」に掲載されて
いた記事です。

      最後まであきらめず仕上げる
            非常勤教員 鈴木裕美 56(東京都大田区)

 中学校の時の家庭科の先生は、たいへん厳しい先生でした。授業中、作品
が仕上がらない場合は、夏休みも学校へ行き、作品を仕上げました。しかし、
出来上がった時はうれしさでいっぱいになりました。
 現在、私は非常勤教員として小学校で家庭科を教えています。あの時の先
生と同じように作品が仕上がらない場合は、休み時間や放課後に個別に指導
しています。途中、縫い直しになり、悔し涙を流した子もいますが、全員が
最後まで仕上げられるように指導しています。子供たちは出来上がった時に
は「できた」とやり切った顔をしています。喜ぶ子供の顔を見ると、こちら
までうれしくなります。
 ミシンの糸のかけ方も知らなかった子も、今学期は、上手に縫えるように
なりました。これからの人生でも失敗することや壁にぶつかることがあるか
もしれませんが、あきらめずに生きていってほしいと願ったいます。


   
(14)耐える力、辛抱する力を育てる


 今の子ども達は、自分の要求が受け入れないと、すぐ「お母さんは、ぼく
のことを考えてない」とか「わたしの気持ちが分かってない」と言い、「死
んでやる」とか「自殺してやる」とかの強迫のコトバを言います。
 今の子ども達は、物質的に豊かで、自制心やこらえ性がないと言われてい
ます。今の親たちは、わが子から「あれ、買って」とか「○○君が買ったの
で、ぼくにも買って」とねだられると、すぐじ買い与える傾向にあります。
わが子がお金で肩身の狭いおもいをさせたくないからと、親は子どもからね
だられると、高価な品物でも多少の無理をしてでも買い与えてしまいます。
 今はお金があれば何でも手に入る時代です。何でも買ってやると、子ども
に「がまんする」という忍耐力や、「物を大切に使う。擦り切れても、工夫
して使う」という節約心を失わせることになります。子どもの物質的な欲望
を安易に満たしてばかりいては、子どもの経済的観念が薄くなり、ひたいに
汗して働き賃金を得ることの苦労が理解できなくなります。
 子どもにむやみやたらに買い与えることは、子どもの道徳的な価値基準ま
でをも歪んだものにしてしまいます。子どもはわがままになり、「好きだか
らやる、嫌いだからやらない」というように一時的な気分や気まぐれで行動
するようになります。自分勝手な「好き、嫌いの判断」で行動する子になっ
てしまいます。また、これは「損だからやらない、得だからやる」というよ
うな物欲的な「損、得の判断」で行動する子になってしまいます。「正しい
からやる、正しくないからやらない」という「善悪の判断」で行動する子に
育たなくなってしまいます。
 今の子ども達は、昔の子ども達と比較して、親が汗を流して働いている姿
を見る機会が少なくなっています。専業農家や専業漁業が少なくなり、農村
や漁村の若ダンナ衆はサラリーマンになって会社へ出勤するようになりまし
た。働きバチといわれる日本のサラリーマンたちは、朝早く自宅を出て、1
時間以上も電車に揺られて出勤します。帰宅は深夜になるのがふつうです。
だから、子ども達は、父親が汗を流して労働している姿を見ることができな
くなりました。
 わたしが小さい時は、両親がひたいに汗して働いている姿、労働の厳しさ
や苦しさ、生活費を稼いでいる姿、苦しい家計のやりくりを相談している父
母の姿を見ることができました。このような両親を見せられていたので、わ
たしは欲しい品物があっても、それを口に出して「買って」と両親に申し出
ることができず、じっと我慢してたものです。昭和生まれの人間の大多数は
皆さんがそうでしょう。いま思い出せば、このことは両親からわたしへの最
良の人生教訓の贈り物であったと言えます。このことで、わたしはお金のあ
りがたさ、お金を得ることのむずかしさ、労働の尊さ、むだ金を使わない、
物を大切に使う、長持ちさせる、計画的に使う、わがままを抑える、じっと
我慢する、耐えて忍ぶ、代替物を工夫する、別の道を切り開く、などの力が
身につきました。
 真の愛情とは、親は心をオニにしてわが子に小さい時から耐える力、我慢
する力を身につけさせることです。小学高学年になれば、家計のやりくりの
苦しさも語って聞かせてよいでしょう。父親の月給はいくら、毎月の生活費
のおおよそを知らせてやるのもいいでしょう。毎月の米代いくら、野菜代い
くら、魚代いくら、電気代いくら、ガス代いくら、水道代いくら、と教えて
よいでしょう。子どもの無制限な物欲(金銭、物品への欲望)には、親は
「これこれの理由でダメなのよ、そうしてあげたいんだけどダメなのよ。ご
めんね」とコトバは軟らかく説得して、しかし毅然として拒絶する勇気と決
断力が必要です。人間は辛抱が大切です。逆境にまさる教育なしです。人間
は逆境の中でこそ大きく成長していきます。世の中は自分の欲望どおりにう
まくいかないことを、わが子に小さい時から知らせていくようにします。


         このページのトップへ戻る